東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2601号 判決
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〔判決理由〕昭和四三年二月二一日本件自動車の保有名義人である石垣喜一と被告との間に、本件自動車につき、保険期間を同日から昭和四四年三月二一日までとする自動車損害賠償責任保険契約が締結されたことは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない<証拠>によれば、昭和四四年一月三〇日午後四時五〇分頃、宮城県柴田郡村田町大字村田字末広町一一一番地前県道上において、被害者石垣孝一(当時三才二ケ月)が、右石垣喜一の使用人佐々木新一の運転する本件自動車の左後輪で轢圧され、頭蓋底骨折のため、同日死亡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(一) そこで、原告らの被告に対する損害賠償請求権の成否について判断する。
被告は、原告らも前記石垣喜一と共に本件自動車の共同運行供用者であると主張する。しかし<証拠>によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告主張の「石垣喜一商店」は、石垣喜一が銀行取引や手形振出しの名義人となるのはもとより、経営一切をとりしきり、原告石垣正男は、いわゆる跡取りとして店の手伝いをしているが、その経営面には関与せず、配達、集金等の仕事に従事しており、また、原告石垣美津子は、原告石垣正男の妻として家事や育児に専念していたにすぎないこと、また、本件自動車は、石垣喜一が店の経営に使用するためその営業収益をもつて自らの名義で購入し、ガソリン代も店の収益より支出されていたこと。石垣喜一商店には事故当時五名の従業員と本件自動車を含めて合計四台の車があり、誰がどの車を運転し、どの車をどの仕事に使用するかは一定していなかつたが、原告石垣正男は、ヒューム管の運搬に従事することが多かつたとはいえ、本件自動車は、二トン車で軽小のためヒューム管の運搬に使用されていなかつたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
しかして、右認定事実によれば、本件自動車の運行供用者は、名実ともに、石垣喜一ただ一人であつて、原告石垣美津子はもとより、原告石垣正男も、本件自動車の運行供用者ではなく、むしろ、同原告らは、自賠法三条にいう「他人」に該当するものというべきである。それ故、原告らが本件自動車の運行供用者であることを前提とする被告の混同の主張は、その前提を欠き、失当というべきである。
また、被害者石垣孝一が原告らの長男であり、訴外石垣喜一が同人の祖父であることは、当事者間に争いがないが、親子等の親族間において、親族の一人が不法行為によつて他の親族に損害を与えた場合においても、被害者たる親族は、加害者たる親族に対して損害賠償請求権を取得し、かつ、家族の生活共同体が破壊される等特段の事情がない限り、それを行使することも許されるものと解すべきであり(最高裁判所昭和四七年五月三〇日第三小法廷判決、判例時報六六七号三頁参照)、この点は、被害者の蒙つた損害が財産的損害であるか精神的損害であるかによつてその理を異にするいわれはなく、ただ精神的損害の場合には、親子ないし夫婦という身分関係が、慰藉料額の算定に当つて斟酌されることがあるにすぎないのである。そして、本件は、祖父の使用人の過失に基づく事故によつて損害を受けた孫の損害賠償請求権を相続した同人の両親で祖父の子およびその妻である原告らが、自賠法一六条一項の規定によつて保険会社に対し損害賠償額の支払いを求めているものであるから、これにより原告ら家族の生活共同体が破壊される等特段の事情は、認められない。
よつて、本件事故につき原告らには損害賠償請求権が発生せず、また発生してもこれを行使しえないとする被告の主張は、理由がないものというべきである。
(渡部吉隆 田中康久 大津千明)